2023.01.28 東海地方のつくり手
東海地方の魅力的なつくり手をご紹介するシリーズ。今回は尾州産地にしかつくれない無添加メリノウールで最高の着心地を実現した「糸と色」をご紹介します。
はじめて試着したとき、あまりの着心地の良さにびっくりしたことを覚えています。墨色の”はいからネック”と”シミーズラグラン”を購入し愛用しているのですが、アトピー体質でタートルネックは苦手なはずの息子が、時々ちゃっかり借用していきます(苦笑)。
この「糸と色」の最大の魅力は、なんと言っても無添加の天然ウール100%で、肌あたりのストレスが無いということ。どうしてそう感じるのかという理由を知れば知るほど、このウールの魅力にはまってしまいそうです。
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尾州のカレント新見本工場へお邪魔して「糸と色」の企画デザイナーである彦坂さんにお話を伺ってきました。
ご存知かも知れませんが、メリノウールとは、オーストラリアやニュージランドで飼育されている「メリノ種」という羊の毛のこと。繊維の細さや白さが特徴です。今は世界に流通しているウールの7割近くがメリノウールだと言われています。
余談ですが・・・皆さんよくご存知のアニメ『ひつじのショーン』に出てくる黒い顔をした羊は「サフォーク種」と言います。
ウールは夏に蒸れることなく涼しく感じ、冬は暖かい、長時間着ても匂いがしにくいといった高い機能性を持ち、さらにメリノウールは、一般的なウールよりも繊維が細く上質な艶感を持ち、なめらかな肌触りを実現してくれるため多くのファッションブランドで使わている素材です。
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考えてみれば、厳しい自然環境から羊の身を守っているのがウールですから、天然のウールが魔法のような特性を持っているのも頷けます。汗や蒸れを素早く吸って乾かし、熱を放出してくれ、寒さから身体を守ってくれる。おまけに汗臭くなりにくい。まさにウールは天然の魔法! 昔から登山者に愛用されていたわけです。
ところが、ウールは防縮加工によって表面のスケールを痛めてしまうと、せっかくの優れた機能は死んでしまいます。キューティクルが痛んだ髪の毛を想像してみてください。
加工をしていないウールは【天然の透湿防水素材】。「糸と色」は、本来のウールの着心地の良さを伝えたいと、防縮加工をせず、ほどよく洗いをかけた最高の状態で作られています。
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繊維の直径をを表す時にマイクロンという単位が使われます。
1μm(マイクロン)=0.001ミリメートル。
通常のウールの太さは24~42μm。
頭髪は50~150μm。
メリノウールは16~23μm。
細くなるほど肌触りがよく、上質で貴重とされます。
最近ではファストファッションブランドでもエクストラファインメリノ(18.0~19.5μm)を使用したニット製品を販売していますが、「糸と色」使われているウール繊維の平均直径は、なんと超極細の16.5 μm。0.00165mmです。
スーパーエクストラファインメリノと呼ばれるこの超極細ウールは、国内外の高級ハイブランドなどで使われている上質素材です。
この素材を、尾州産地のオリジナルブランドとして、素材へのこだわりを持って製品化したのが「糸と色」。
特にカットソーシリーズは、この極細繊維から紡いだ空気のように軽い糸を、昔ながらの低速編機でゆっくりと緻密に編み上げ、丁寧に縫製してつくられたものです。熟練の技術や手間と時間がかかるため他ではマネができない。唯一無二と言われる由縁です。
仕上がりのステッチの美しさと着心地の滑らかさを追求し、カットソーシリーズの袖口や裾には表にステッチが見えにくい「天地始末」を採用しています。これは熟練の技術を持つ者がいないと難しい。そして襟付けには手間のかかる「マタギ縫い」。
秋冬向きの、とろけるようなセーターシリーズでは、袖付けや脇、そして襟付けまで全て「マタギ縫い」で縫製しています。手間は2倍かかるものの強度が高くほつれにくい。
長く愛用していただきたいという尾州の職人のこだわりと、最高の着心地を届けたいという「糸と色」のこだわりです。
「糸と色」では自然の色や日本の文化を感じる「朱」や「墨」などの伝統色を、天然由来の染料で再現しています。
染色をしていない、ひつじ本来のあるがままの色。厳選された原毛のみを使用した、とても綺麗な乳白色です。
草木染めが難しいウールを、「ざくろ」から抽出した染料100%で染めたもの。天然繊維 x 天然染料のため、毎回少し違った色に仕上がるのが楽しみだそうです。
墨から抽出した染料を使用して染めたもの。高温でゆっくりと染めることにより深みのある美しい黒に仕上がっています。
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こうして話を聞いていると良いとこばかりのメリノウールですが、無添加、つまり防縮加工をしていないウールを使い、肌に直接着ることもあるアイテムとなると、お手入れの方法が気になるところです。
恥ずかしながらお値段もそこそこ高い上質なウールは、以前はドライクリーニングに出すものと思っていましたが、ポイントを押さえておけば、自宅で手軽にお手入れができることを教えていただきました。
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ウールが縮んでしまうのは、水を含んだウール繊維が膨張し、髪の毛のキューティクルのようなウール繊維の外側にあるうろこ状の表皮「スケール(写真1)」が開いて、強いもみ洗いによってスケール同士が絡み合った状態になるから。これをフェルト化と言います。
つまりフェルト化を最小限に抑えるようにすれば、家庭でも洗えるわけです。
家庭で洗うとなると、手で優しく押し洗いしなければと思いますが、ちょっとしたポイントさえ押さえれば、洗濯機でも洗えると教えていただきました。実際、彦坂さんも洗濯機で洗っているそうです。
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実は、一切防縮加工をしないウールでつくった「糸と色」の製品には【ドライマーク】がついています。
写真のマークは左から、家庭での洗濯禁止、酸素系・塩素系の漂白剤禁止、タンブル乾燥できない、110℃以下でアイロン仕上げスチーム禁止 、石油系溶剤による弱いドライクリーニングができる 、ウェットクリーニングできない、を意味する洗濯表示マーク。
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本当に家で洗濯できるのかな?
ちょっと心配になりますよね。
ドライクリーニングは石油系の溶剤で洗うのでスケールが開いて絡まり合うことはありませんが、水溶性の汚れは落ちにくい。
そもそもウールは汚れにくく汗臭くなりにくいもの。肌に直接着るTシャツも、1回着たらすぐ洗うという必要がない素材なのです。
ウールの特質を知って、ドライマークであることを理解した上で、自分で洗ってみてほしいと、彦坂さんはおっしゃいます。
「糸と色」をご購入された方には、もれなくイラスト入りの説明書が付いてきますから安心してください。
もちろん「ご家庭でのお洗濯は自己責任でお願いします」(笑)の注意書きは載っています。
無添加ウールを気軽に家で洗えれば、贅沢なその心地よさを日常で楽しんでいただけると思います。
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大鹿株式会社のオリジナルブランド「糸と色」は、尾州のカレントが応援するブランドの一つ。この他にも大鹿株式会社では、尾州を代表するコートブランド「blanket」、尾州で60年間続くリサイクルウール文化を伝えるテキスタイルブランド「毛七」なども手がけています。
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尾州のカレントは、彦坂雄大さんが中心となり2019年に結成した自主的な産地活性サークルです。商品開発、イベント開催、ラジオ番組など、近年衰退し危機的状況にある 「尾州をなんとかしたい」という強い思いから企業の枠を飛び越えた活動を行っています。
「カレント」とは「水の流れ」を意味し、川の流れで例えられる繊維産業全体を良くしたいという気持ちが込められているそうです。
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尾州のカレント新見本工場
愛知県一宮市西荻原上沼40
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