2022.03.29 東海地方のつくり手
東海地方の魅力的なつくりてを手をご紹介するシリーズ。今回は岐阜県関市の「志津刃物製作所」をご紹介します。
そんな女性たちから
キッチンに置きたい!と口コミで広まった
「morinoki」のパン切りナイフと、
和食がつくりたくなる包丁「ゆり」。
その「やさしいカタチ」と切れ味の良さが、料理へのモチベーションをググッと上げてくれます。
今回はこの素敵な包丁たちと、作り手である志津刃物製作所をご紹介させていただきます。
morinokiシリーズは
tsunaguのお客様にも大変人気があります。
無垢のケヤキを使用した温かみのあるハンドルが特徴で、特にパン切りナイフは硬いパンもシフォンのような柔らかいものも、びっくりするぐらい気持ちよくきれいに切れます。パンくずもほとんど出ません。
実はこれ、すごい!ことなんです。
バケットやライ麦パンを食卓でカットした後のまわりに飛び散ったパンくず。並んで手に入れた高級食パンを自宅でカットしたら、角が潰れてしまった。こんな経験はきっと私だけではないはずです。
オリジナルのパン切りナイフの開発は、当初志津刃物製作所の堀部久志社長と、職人でもある工場長が中心となって行っていました。
ところがある日、自社製品の使い勝手を社員に尋ねると、自社で製造した刃物を社内の女性スタッフが誰一人使っていない。
堀部社長は強いショックを受けます。
このままではマズイ!
自分のそばに置いて、使いたいと思ってもらえるようなパン切りナイフを作るには
女性が中心にならなければ!
そこで女性のプロダクトデザイナーも起用し、社内の女性事務員が中心となってプロジェクトを立ち上げます。
このとき、社長は一切プロジェクトに横槍を入れない!と決心されたそうです。
「morinoki」シリーズの特徴である絶妙な握りやすいカーブを描いたハンドルには、リビングやダイニングの家具たちとも調和する無垢のケヤキが使われています。
ケヤキは古くから神社仏閣の建築や高級家具などに使われていている木材。しかしその取り扱いは難しく、扱う者の腕が問われ樹種です。
加工が難しいと言われている理由は
・非常に頑強で硬い
・暴れが起きやすい木材
丁寧に乾燥を行わないと大きな反りが生まれてしまいますし、乾燥が不十分だったり、木の目を見誤って加工してしまうと加工後に暴れて、せっかくの製品が壊れてしまうこともあります。
ですから「ハンドルにケヤキを使いたい」という話を聞いた堀部者社長は、内心大反対!
しかし目利きの腕が問われる樹木なら、その腕を持つ協力者を探してくるのが自分の仕事だと、プロジェクトを応援したのです。
「どんな硬さのパンもストレスなく切れるものにしたい」この願いには工場長が試行錯誤の実験を重ね全面協力しました。
過去にOEMで製造したパン切り包丁を全て試したところどれも満足がいかない。刃の形状を微妙に変えては繰り返し繰り返し、納得が行くまでテストを重ねました。
こうして刃物メーカーとしての意地と技術と女性事務員の熱い想いから、ストレスのない切れ味で使うたびに愛着がわく美しい姿のオリジナル『morinoki パン切りナイフ』が完成したのです。
志津刃物製作所がある関市は『刃物の町』。
関の刃物づくりは800年の歴史をもち、ドイツのゾーリンゲン、イギリスのシェフィールドと並ぶ世界の三大刃物産地と言われています。あの有名な貝印もある町です。
良質な焼刃土、炉に使う松炭、長良川の清らかな水に恵まれ’刀都’とも呼ばれてきた伝統のまち関市では、切れ味の良い包丁が生み出されています。
毎年11月8日には関の刃物産業連合会主催で「刃物供養祭」が行われています。全国500ヶ所に黄色ボックスが設置され、不要となった刃物を回収し供養した後、リサイクルされて新しい金属製品へと生まれ変わり、使えるものはメンテナンス後災害時支援用にリユースされます。
自分たちが生み出した道具を買って使ってもらうだけでなく、きちんと供養し再び循環させる。SDGSがまるでブームのように唱えられ、アパレルブランドによる古着の回収がニュースになる世の中ですが、これはもっとずうっとずうっと昔からの取り組みです。
岐阜県関市小瀬に志津刃物製作所はあります。
先日、前日に69歳の誕生日を迎えたばかりという堀部久志社長と営業企画の堀部喜学さんからお話を伺うことができました。
志津刃物製作所の創業は1959年。刃物の磨き職人であった現社長のお父さまが初代となります。
「志津刃物」と聞いて、刀鍛冶の名匠 志津三郎兼氏を連想される方もいらっしゃるのでは?
実は私も「志津系」の流れを組んだ血筋の方々ではと到着早々堀部社長にお尋ねしたのですが…
「いや〜全く関係ないですよ!」の一言。私の勝手な早とちりでした(苦笑)。
関の刀は「折れず、曲がらず、よく切れる」と謳われ、なかでも志津系は切れ味の良い実用性と華やかさを追求した系譜。自分がつくる刃物もそうありたいという初代の想いが、刀匠にあやかった社名をつけたようです。
創業当時は主に海外輸出向けのOEM(納入先商標による受託製造)が中心で、その結果さまざまな製品づくりを通して高い加工ノウハウが社内に蓄積していきます。その確かな技術が評判を呼び、包丁を中心にマウンテンバイク部品、ドア部品、釣り道具の部品など有名ブランドからの依頼が増え、現在では分社化したグループ会社で製造を行っています。
話が少々繰り返しになりますが、当初は社長と工場長が中心となり自分たちが持つ技術を活用して、作りたいものを作って満足していた。
しかし、素晴らしいモノができたと思ってもなかなか売れない。技術の結晶キッチンカトラリーは自社の女性スタッフも使ってくれていない。
ショックを受けた社長の英断!
そして「morinokiシリーズ」の誕生へとつながるわけです。
しかし、ここから社内の空気が変わっていきます。
以前は社長からの指示まちだった社内が、今では新製品のアイデアやスケッチが社員からどんどん上がってくるそうです。
現在も有名ブランドへの技術開発・技術提供という形でOEM製品を作り続けていますが、一方でオリジナルの個性的なプロダクトも創造するクリエイティブな集団へと変わってきた。
今回お邪魔した志津刃物製作所のショールームには、有名ブランドのロゴが入ったOEM製品やmorinokiなどオリジナル製品が展示されています。
その中には、自社での試作はお手の物というだけあって、遊び心で作ったというミニチュア包丁や、高度なアルミ加工の技術があるからこそできる色鮮やかなアルミのカトラリーなど、思わず欲しくなってしまうレア物も展示されています。
堀部社長はこう言われました。
自分が作りたいと思うモノが売れるとは限らない。しかし新たな企業や人との関わりが、自分たちだけでは不可能だった新しいモノづくりに挑戦できるきっかけになると。
これからも自分でなければできない新しいモノづくりに挑戦していくんだと。
包丁の制作現場を堀部喜学さんに案内していただきました。
一般的に刃物の制作は工程ごとに専門職があり、分業発注されて組み立てられます。刃物の命である刃の切れ味と美しさを決定する磨きの技術こそが志津刃物製作所の要。
「伝承の技術が途切れてしまわないように内製化し、社員として磨き職人を大切にしています。」という喜学さんの言葉がとても心に残りました。
志津刃製作所のオリジナル製品には、無垢ケヤキのハンドルが印象的な「morinoki」の他、和食が作りたくなる「ゆり」と「やまと」、見たことのない美しい黒染めの包丁「玄」、アンティークような風合いの「pomme」など、使い手や使われるシーンを考え抜いた、個性豊かで魅力的なものが揃っています。
最後はtsunaguのお客様からも人気の高い包丁「ゆり」を紹介したいと思います。
まずその姿が凛として美しい。
料理家でもない私を、その気にさせてくれます。
手の小さい私にもしっくり馴染む。
本格的に見えるのにびっくりするほど軽い。
ザクザクと気持ちよく切れる。
まな板の上にこの包丁を乗せてセットすると、
「さあ!身体に優しい美味いものを作ろう!」という心の声が聞こえてくるようです。
上の写真は左から万能包丁と言われる「三徳」
次は「菜切り」。私の母はこのタイプの包丁で料理をしていました。
右端は、ジャガイモも剥いたり細工調理したり、ちょっとしたものを切るのに便利な「ペティ」です。
刃は3本ともブレード3層鋼。両側に錆びにくいステンレスを使い、芯材には切れ味が長続きするモリブデンバナジウムステンレス鋼を使用しています。
デザインのポイントでもある白木の美しいハンドルは水に強い積層強化木。さらにブレードの間に水の侵入を防ぐ口金がついているので、木のハンドルなのにざぶざぶと気兼ねなく水で洗える。
「ゆり」シリーズは、その品ある姿に相応しい美しい木箱に収納されています。
新生活が始まるご自身の門出へのお祝いや、料理好きのお母さまやご友人へのプレゼントにされると、
「生活は美しくシンプルに」
「自分らしくこだわり持って暮らしたい」
と思っている方には、きっと喜ばれると思います。
有限会社志津刃物製作所
〒501-3265 岐阜県関市小瀬2771-1
TEL 0575-22-0956
URL http://www.sizu.net
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